インタビュー紹介

写真1画像
田中 佳世子さん

田中 佳世子さん

株式会社川嶋建設
二級建築士
インテリアプランナー
但馬の地で建築士としてしなやかに働き続ける

会社情報

株式会社川嶋建設
【所 在 地】 兵庫県豊岡市寿町11番35号
【事業内容】総合建設業
【従業員数】140人
(女性11人、男性129人(令和2年1月1日現在))

但馬の地で建築士としてしなやかに働き続ける

 株式会社川嶋建設は、1889年豊岡市に創業。但馬地域に根ざした総合建設業者として地元の方から親しまれていています。昨年130周年の節目を迎えた同社は、「風景になる、仕事。」を企業コンセプトに掲げ、建設活動における地域環境及び自然環境への影響を最小限に抑え、自然と共存する時代認識のある経営、細やかなサービスを提供することで真に顧客の信頼と満足に応える製品とサービスの提供を目指しています。
 男性が9割を占める同社において、唯一の女性建築士として活躍される田中さん。「お客様の注文に応えるリフォームの提案ができた瞬間には大きな喜びを感じます」と、仕事への熱い想いを語られる田中さんに、これまでの経歴や仕事への思い、後に続く女性へのメッセージなどを伺いました。

生まれ育った地域に根を張って暮らしたい

Q:建築士を目指されたきっかけと、これまでの経歴を教えてください。

 もともとインテリア関係の仕事を希望していたのですが、進路を決める際、「インテリアは建物に付随するものだから、建物の構造を学ぶことも視野に入れてみたら」と勧められ、建築士を目指すようになりました。3年間専門学校で学び、卒業後すぐに就職して、現在で13年目になります。この間に結婚と出産を経験しましたので、育児休業を1年ずつ取得し、復職後も下の子が3歳になるまで短時間勤務制度を利用しながら、仕事と子育てを両立してきました。
 ひとつ転機があったとすれば、下の子が3歳になるタイミングだったように思います。子どもの成長に寄り添うことを考え、フルタイムでの就労継続を諦めることも検討し、相当悩んでいた時期だったのですが、そんな私の心配をよそに、親は「孫育て」をする気満々で居ましたので(笑)、サポートの申し出と共に全面的な協力が得られました。更に、会社の理解もあって、フルタイム社員として継続することに決めました。振り返って考えると、まさに「案ずるより産むが易し」だったと思います。現在も、学校行事や予防注射といったものは、周囲と調整しながら早めに休みを申請して、子どもとの時間も大切にするようにしています。社員それぞれが抱える事情を理解する「お互い様」の風土があるので、制度を使いやすく働きやすい組織だと思います。

Q:就職先を但馬地方に選ばれた理由を教えてください

 候補地として、地元但馬地方と神戸を考えていました。就職活動を続ける中で、人が温かくて、自然に恵まれているこの地を離れることはできないと感じて、留まることにしました。そして、その選択は正しかったと思っています。都市部では待機児童も出ている保育園にもすぐに入れましたし、保育士さんの目も行き届いています。周辺環境の素晴らしさも相まって、子育てには最高だと感じています。

Q:仕事をしていく上でのご苦労や、やり甲斐について教えてください

 幸いなことに、上司や同僚からのフォローにも恵まれていて、これまでの仕事で大変な経験と言われても、すぐには思い浮かぶようなものはないです。強いて言えば、お客様との打合せの開始時刻が遅い設定になる時などは、子どもの眠る時間に帰宅できないときもあるという程度でしょうか。そういった時は心の中でごめんねと手を合わせていますが、そういったことも含めて仕事の経験を積む上で貴重な時間だと感じていますので、やはり苦労には入らないですね。
 やりがいは、現在持っている二級建築士の資格を活かして、ある程度の規模の建物であれば、設計から完成まで全工程に携わることができることです。建築物は、作るものは大きいのですが、中身はミリ単位での精度を求められることから、細かい寸法の計算や見直しが必要となります。そういった作業を根気よく繰り返し、搬入した造作物がスペースにぴたりと填まった時などは、心の中でガッツポーズをしてしまうほど嬉しい気持ちになります。
 また、最近は女性目線での設計を望まれ、「女性にお願いしたい」と仰ってくださるお客様も多いのは嬉しい限りです。インターネット等を通じて簡単に情報が入る時代を反映して、お客様の要望も年々高くなっていることを感じますが、要望にしっかりと耳を傾けることで、お客様の曖昧なイメージをしっかりと設計に落とし込んで形づくるようにしています。女性目線というのは勿論ですが、私自身が主婦としても培った経験が一助となって、限られたスペースの中での設計が綺麗に収められた時などは、喜びもひとしおです。

働きやすく働きがいのある職場づくりをめざして 

Q:これからの目標について教えてください

 現在持っている二級建築士の資格では、大規模な建物の設計に携わることはできないのも事実です。折角設計に携わる仕事をしているのですから、いずれ一級建築士の資格を取得して、自分がデザインした建物を後世に残していきたいという思いもあります。
 子育てをしながらですので時間の制約もありますし、また、上司から仕事のフォローを受けながら仕事を進めている状況からすると、更に膨大な知識が求められる一級建築士の資格取得を口にするのは憚られます。その先にある管理職への昇進を考えると、その職責に対する不安もありますが、弊社は、女性管理職がおらず、中堅層も不足しているということが課題となっています。採用された新入社員の1年未満離職者が一定数いることから、女性ロールモデルの不在、社員の高齢化による新入社員とのジェネレーションギャップに因るところもあるかと思いますので、できる範囲で橋渡し役になりたいとも思っています。

Q:家庭と仕事の両立はどのようにされていますか?

 以前と比べて、平日に行われる保育園行事へのお父さんの参加率が高くなっているのを感じます。そういった姿を拝見すると、社会や家庭内における「男女の壁」がだんだんと低くなっていることを感じます。我が家も、主人が料理好きで、食事担当をしてくれています。また、出社時間の関係で私が先に家を出るため、子どもの保育園への送迎についても、主人と両親が連絡を取り合って調整をしてくれています。日常的に繰り返されることについては、全幅の信頼をおいて任せることができるため、安心して仕事に専念しています。我が家は、女性だから家の中でこれをしないといけないというバイアスが低く、恵まれた環境に感謝しながら、母として妻としての役割を果たしています。

Q:気分転換の方法について教えてください。

 疲れた時は100円ショップに買い物に行くことが多いです。100円ショップの品揃えには目を見張るものがあります。買ってきた物でDIY風に作品を作ったりして気分転換しています。それに、通勤中の車の中で思いっきり歌ったりもします。そういった日常の何気ない時間の中で気分転換しています。
 何より、あまり頑張り過ぎないようにしています。気持ちの緊張が続くと、人は折れてしまうように感じます。どうしようも無い時は、「少しくらい逃げても大丈夫」と考えながら、肩の力を抜くように心がけています。 

Q:これから続く方へのメッセージをお願いします。

 設計士として、お客様の要望を形にしていく以上、一つとして同じ建物になることはありません。そのため、以前の経験を活かすことはできても、そっくりそのまま使うことはなく、同じ業務を繰り返すことはありません。「ものづくり」に携わる者として、そこに面白さを見いだせたら本当にやりがいを感じることができる仕事です。
 新しいことに出会う度に、まず自分の中で熟考してから、上司に方向性を尋ねたりアドバイスを貰いながら建物づくりに取組んでいます。設計はこれまで男性社会と言われていましたが、女性しかできないことも沢山あります。女性が少なかった分、開拓できることが沢山残っている業界です。是非とも夢と目標を持って飛び込んできて欲しいと思います。これから将来を担う子たちと地域に役立つ作品を造る仕事の醍醐味を一緒に味わって行きましょう。皆さんが門を叩いてくださることを願っております。