インタビュー紹介

HP用(カット)画像
谷村 美保さん

谷村 美保さん

医療法人 仁風会 小原病院
看護部長、認定看護管理者
一人一人がやり甲斐を持って働ける職場づくりとキャリアアップ(MBA取得を目指して)

会社情報

医療法人 仁風会 小原病院
【所在地】神戸市兵庫区荒田町1丁目9-19
【事業内容】医療機関
【従業員数】180名(2018年1月末現在)

一人一人がやり甲斐を持って働ける職場づくりと
キャリアアップ(MBA取得を目指して)

 地域に根ざした病院づくりを目指し、1970年に医療法人仁風会として設立した小原病院。基幹病院と連携して、事故や重篤な病気で人工呼吸器を装着する患者の転院先として約120台の装置を設置しています。過酷な労働環境から離職率が高いといわれる医療現場において、新卒採用看護師の離職ゼロを実現しています。
 7年前に看護部長に就任後、絶えず患者とスタッフのための病院づくりを追求し続ける谷村さん。激務をこなしながら、大学院で経営学のMBA取得に向け学び続けられるパワーの源を伺いました。

少し高めの目標をキープして、必要とするスキルを追加する

Q これまでの経歴は?

 両親が病弱だったため、中学卒業後に働きながら看護学校に行く予定でした。合格した看護学校の校長先生に高校進学を勧められ、予定変更して高校卒業後にその看護学校に入学しましたが、高校の学費は自分で稼ぐと決めていましたので、学業の傍ら多くのアルバイトを経験しました。その経験は、多職種をマネジメントする看護部長の仕事に役立っています。
 仕事に積極的に取り組んだことで、早い時期に看護部長に昇進しました。自治体や民間病院などで経験を積み、立て直し役として招聘されることもありました。30代で夫が急死したことも、仕事に没頭した一因かもしれません。
 管理部門は、部下のメンタルヘルスや財務関係の業務も必要になってきます。必要とするスキルを追加しようと資格にチャレンジした結果、医療安全管理者、救急救命士、介護支援専門員、メンタルヘルスマネジメントなど、名刺の裏に書ききれないほどになりました。また、幹部として医療経営に関する知識を深めるため、大学院に進学しました。

 

Q 大学院ではどのようなことを学ばれていますか?

 大学で医療経営学を学び、引き続き大阪市立大学大学院経営学研究科修士課程で「医療イノベーション経営研究」を専攻しました。大学院の2年間は平日2日と土日に大阪市まで通学し、無遅刻無欠席を貫き、今月、修士論文を提出しました。平日は勤務終了後に2時間かけて通学したので、夜遅く自宅に帰れない時はホテルに泊まりました。
 経営学修士MBAのプログラムは、イノベーション性を、ラディカル性・先駆性・ローカリティ・持続的発展可能性・比較優位性の5つの次元で評価するため、広く国内外の事例を調査します。昨年はフランスで開催された国際学会に参加し、現地の医療施設を見学する機会にも恵まれました。
 また、高度専門人材の育成に焦点をあて体系的に構成してあり、実践力を重視してプレゼンテーションや意見交換を行う機会が多く、医師、薬剤師などの医療関係者や、財務関係の専門家など多彩なクラスメートとの議論は得難いもので、今後の職場環境の整備に活用していきたいと考えています。

多くの人と対話して、安心して意見を言える雰囲気を作る

Q 職場環境を改善する中で工夫したことは?

 7年前看護部長に就任した時は、早出残業などの課題が山積し、スタッフの士気が低下していました。それぞれが持つ高いスキルを活かすために、理事長・院長の支援を受けて、同時期に就任した事務長と協力しながら改革していきました。長年の慣習を変革することは本当に難しく、就任5日目に「私、辞めます」と事務長室に駆け込んだことも今は懐かしい思い出です。
 まずは現場を知ることと考えて、入浴介助や清掃など院内の全ての仕事を経験しました。次に「なぜ」を5回繰り返して問題を掘り下げる「5Why」の思考で問題を構造的に捉え、人員配置や業務負担の見直しを実践。少しずつ理解も得られ、3年目に手ごたえを感じられるようになりました。目標や情報を共有し権限移譲したことで、スタッフが自主的に仕事できる体制になり、安心して大学院に通えます。
 職場環境の改善には、スタッフのアイデアが不可欠です。そのため、率直に意見を言える雰囲気づくりを心がけています。看護部長室と事務長室はいつも開かれており、誰でもいつでも気軽に提案や相談できる体制です。風通しの良い職場が実現したことで、メンタルの問題で休職するスタッフもいなくなりました。

Q 改革を行う原動力は?

 物事をポジティブに捉えることと、スタッフが持つ力を信じています。却下されたアイデアもいつかは採用される、頼りないと思える新人もひとり立ちできる時が来る、と信じることを心がけます。指導に苦労したスタッフが、立派に職責を果たす姿を見ることは大きな喜びです。70歳以上の看護師や障害を持つスタッフなど、誰もがイキイキとバランス良く働ける環境が実現しています。
 理事長・院長はじめ事務長、看護師長など多くのスタッフに支えられ、守られている安心感が、改革の大きな原動力となっています。強い信頼関係で結ばれ、自由な発想を受け入れてもらえる状況は何物にも代えがたい宝です。

スイッチを切り替えて、多くのことを同時進行する

Q 仕事と学業などを同時進行するコツは?

 もともと探究心が強いので、取り組みたいことが次々に出現して同時進行せざるを得ませんでした。いつの頃からか、その時々の役割スイッチを切り替えています。看護部長のスイッチ、学生のスイッチ、プライベートのスイッチなどです。プライベートではランチのメニューも選べない私ですが、看護部長としては大胆に決断を下します。スイッチを切り替えることで、それぞれの特徴を最大限に発揮できます。
 工夫しても大変になる時は、兄弟が助けてくれるのでとても助かります。兄弟や友人との旅行やクラスメートとの活動、看護部長仲間との食事会は、多忙な毎日を乗り切る大切な時間です。

Q 今後の計画は?

 課題を丁寧に改善してきたことで、働きやすい職場環境に生まれ変わりました。始業時間前出勤の禁止運動、学童のためのスペース確保など、当院独自の取り組みは注目されています。しかしながら、日々新たな課題も生まれます。早い段階で発見し解決できるように、スタッフとのよりよいコミュニケーションを大切に、誰からも気軽に声をかけてもらえる看護部長を目指します。
 MBA取得後は、クラスメートと医療組織の支援を目的とした団体を立ちあげます。規模の小さな病院や施設を対象として、出前研修やコンサルタントをボランティアで行い、学んだことを医療・福祉業界に広げていきたいと考えています。多彩なメンバーとの活動がとても楽しみです。

ロールモデルに学び、場づくりを心がける

Q これから管理職やリーダを目指す女性へのアドバイスをお願いします

 子育てする時期、仕事する時期、学びの時期など、ライフプランは人それぞれです。医療・看護は女性が活躍する分野で、専門性を高める学習の機会も多い職場です。また、医療の高度化、複雑化に対応するために、より幅広い知識が求められるようになりました。私は、魅力を感じた女性に出会った時は、絶えず観察・分析し、少しでも、ありたい姿に近づけるように、知識を習得する努力を重ねています。スキルが身につくことは、とても楽しく充実した時間だと感じますので、皆さんにも意識的にロールモデルを探して頂き、ご自身が成長したいと思うタイミングで、知識を習得して頂きたいです。もし、私の後姿を見て、当院のスタッフの間で学びの機運が高まり、チャレンジしてくれているなら、嬉しい限りです。
 人は、環境と与えられた仕事の中で成長し、自分を認めてくれる会社や人のためにがんばれると感じています。女性ならではのきめ細やかな気づきをもって、スタッフが通じあう場や心理的に安全な場づくりを心がけ、学習するための骨組み作りは、うまくいかないこともありますが、失敗から学ぶことも多いです。振り返りをしっかり行いながら、ご自身の生き方に自信を持って働き続けてください。