インタビュー紹介

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荻原 尚子さん

荻原 尚子さん

社会福祉法人後楽園
認定こども園どんぐりの家
統括副園長兼主幹教諭
保育士の働き方改革
子どもひとりひとりに向き合うために

会社情報

社会福祉法人後楽園
認定こども園どんぐりの家
【所在地】相生市双葉1丁目4-3
【事業内容】保育サービス
【従業員数】17人(女性15人、男性2人(非正規含む、平成28年10月時点))

保育士の働き方改革
子どもひとりひとりに向き合うために

 社会福祉法人後楽園は現在「保育園ゆりかごの家」と「認定こども園どんぐりの家」を運営しており、どんぐりの家は平成28年4月から幼保連携型認定こども園として子どもたちを育んでいます。
 この「どんぐりの家」で熱い思いを持って働かれているのは、副園長であり保育士でもある荻原尚子さんです。保育士の仕事が好きで好きでたまらないという荻原さんは、保育士の専門性の向上と働きやすい職場環境づくりに日々奮闘されています。 

熱い思いに心を打たれて保育士の道へ

Qこの仕事に就きたいと思ったきっかけはなんですか?

 両親が保育園を経営していたことが一番のきっかけです。私は幼い頃から体が弱く、私の将来を心配した両親がこの保育園を残してくれました。
 体が弱いせいで、努力しても努力しても報われないことが多くて、失意の日々を過ごしていたとき、肢体不自由施設の障害を持つ子どもたちが富士山に登るお手伝いをする機会がありました。親からは、「体が弱いから無理だ」ととめられましたが、施設のドクターの「大丈夫だから一緒に行こう」という言葉に背中を押されて、ボランティアとして参加しました。目標の富士山頂上に導こうとするボランティアの方々の熱い思いに心を打たれ、私ももう一度頑張ってみようと考え直し、父に勧められた保育士の仕事に就こうと決心しました。 

保育の環境に疑問

Q保育の専門性の追求や職場づくりに取り組みはじめた理由は?

 短大時代に親の保育園を手伝っていましたが、当時は保育士として働くメリットを感じていなかったんです。保育制度は何かと厳しく、保育の仕事に遣り甲斐を見出せないまま日々の業務に追われている保育士たちを見てきました。そのうえ労働時間も長く、これが保育士の目指す理想の保育なのかと疑問ばかりでした。こんな環境では、保育士になりたいと願う人がいなくなると思っていました。
 一年ほど幼稚園に勤めた時期があり、その時、幼稚園の現状も知りました。同じ3歳から5歳の子どもを預かるのに、幼稚園教諭と保育士でこんなに処遇や労働環境が違うのかと愕然としました。なんとかしてこの状況を分かってもらいたいと私の思いを大学の先生にお話したら、「本当にそう思うなら、ちゃんと保育を科学して、言葉で説明できるようになってよ」と言われて大きな衝撃を受けました。その言葉をきっかけに私は大学に入り直して勉強することにしました。そのことにより、新しい分野がひらけ、保育雑誌にカリキュラムを提供したり、短大の講師をさせていただいたり、活動の場を広げることができています。

保育士の働き方改革

Q 家庭との両立がしやすいようにさまざまな工夫をされているそうですね。

 保育士の作業を削減する方法を考えて取り組んできました。当園では、いち早くPCを導入し、保育計画の作成を手作業からPCへ移行しました。それまで保育計画はすべて手書きで作成していたので、それだけでも保育士は家に持ち帰らなければできないくらい作業量が多かったんです。子ども一人ひとりにしっかり関わろうと思えば、保育にまつわる事務作業を効率化することが大事です。保育日誌も、フォーマットを作成して効率化を図り、今では事務作業が随分楽になりました。事務作業の効率化を図ったおかげで、昼休みもゆっくり休めるようになり、保育士間での交流が図れるようになりました。
 1週間のリフレッシュ休暇も夫の案です。私は最初、とても躊躇しました。保育士が1週間も休んだらその間どうやって保育園を回すのかと。でも実際に導入すると、休暇先で見つけたアイデアを保育園のお遊戯会に活かすなど、休みの間に見聞を広げてそれを仕事に反映してくれています。また、その人が1週間休むと、布団の手入れや雑巾の洗濯などをその人が進んでしてくれていたことなどが浮かび上がります。こんなに仕事をしてくれていたんだなと保育士同士で認め合うことができるんです。この1週間は、休む保育士にとっても周りの保育士にとっても貴重な時間です。
 また、自分の子どもの参観日に行きたいという2人の保育士が同時に申し出たときもみんなの意見を聞いて、なんとか2人とも参観日に行かせました。これまでこの業界の先生たちはみんな、自分の子どもを犠牲にして保育士を続けていたんです。自分の子どもを犠牲にしなければならない職場に就きたい、復帰したいとは思いませんよね。夫はよく言います「職員に思いをかければかけた分だけ、倍以上返してくれるでしょ」と。しんどい思いばかりさせて、返してくれと言ったって誰も何も返してくれないですよね。なんでもギブアンドテイクです。 

公私共に夫は頼もしいパートナー!

Q どんぐりの家では保育士がいきいきと活躍されていますが、その背景にはパートナーの存在が?

 夫は商社で海外出張を頻繁にしていた時期があり、海外の保育の状況をよく聞いていたんです。海外では子どもがいても女性が働く環境や制度が整備されています。それに比べ日本の保育はまだまだで、保育園も保育士も不足している現状です。
 父が退職し、本格的に保育園を任されるようになって6ヶ月ほどした頃、私は体を壊してしまい、それを見るに見かねて、その頃既に商社を退職し老人介護業界で働いていた夫が、仕事を辞めて保育園の事務の全てを請け負ってくれることになりました。その時、保育の現場を見た夫は「保育士の労働環境は介護業界よりも過酷だ」とつぶやきました。当時は保育士の労働時間には限りがなかったんです。夫が保育に関わるようになってから真剣に保育士の労働時間の短縮に取りかかりました。
 まずは、定時になったらまわりに気兼ねなく帰る職場風土づくりを徹底しました。今ではみんな自分から定時で帰ります。逆に、昼間ゆっくりしていたのでちょっと残らせてください、と言いに来るくらいです。
 その他、やりがいも感じながら仕事ができるように、保育の専門性を高める研修も定例的に実施し、園内研修の際には残業手当が付くようにしています。

Q パートナーとは良い関係を築かれているのですね。

 夫は私のブレイン的存在でいつも問題提起をしてくれるんです。それはもともと保育業界とは違う分野にいたから余計に感じるのだと思います。商社での働きづめの仕事経験からワーク・ライフ・バランスの重要性も自ら実感しています。同じところに勤め始めた当初は離婚するんじゃないかと思うほど喧嘩ばかりで、「この業界のことなんにも知らんくせに!」と思っていましたが、その視点が大事だったのですね。私一人で運営していたらこの保育園は今頃潰れてしまっていたかもしれません。

後輩保育士のために幅広く活躍!

Q 保育士会などでもご活躍と伺っています。

 気がついたら役員、会長になっていました。はじめて会長を打診されたときはすぐには受けられなくて、夫や私のロールモデルでもある野村先生に相談すると背中を押してくださったのでやってみようと思いました。
 野村先生の、保育園を守るためには絶対後ろに引かないという強い信念や姿勢に感銘を受け尊敬していました。そんな強さの反面、体が弱かった私のことを理解し、励まして見守り続けてくださいました。先生の言葉に背中を押されながらこれまで保育士を続けてこられたんです。

保育士の原点
つらいときはこどもたちに支えられて

Q しんどいな、やめたいなと思ったことは?

 教育との壁にぶつかった時は辞めたいと思いました。保育の現場でもこんなに子どもたちの教育をしているのに、教育とは思ってもらえないことに悔しさを感じていました。また、保護者の方にも分かってもらえないときもありました。障害児の親御さんは我が子を障害児と認めたくないという思いもあり、「うちの子どもを障害者扱いするな」とクレームを受けたこともあります。しかし、障害があることをきちんと認識しなければ怪我や事故を防げません。保育士の思いを保護者に理解いただけないときは本当にしんどいなと思います。

Q 辞めたいなと思った時に心を持ち直すためにしていることは?

 保育室に戻ることです。保育室は保育士の原点です。子どもたちを見たらこの子達を放って辞められない、泣いてる場合じゃないと思えます。保育士は保育士以外の何者にもなってはいけないと思うのです。子どもたちを見ているとそれを思い出させてくれるので、くじけそうな時は保育室に戻るようにしています。

あなたを必要としている子どもがいる

Q 保育士を目指す人にエールをお願いします!

 ハンディを背負っていたり、心に傷を持っていたりする人ほど保育士になって欲しいです。相手の心が分かるし、子どもが100人いればみんなそれぞれ違うので100通りの保育があります。絶対誰かが寄り添える子どもがいるはずです。自分が挫折しそうなときに救ってくれたのは子どもたちでした。5歳までの子どもたちはへこたれることを知らないんです。子どもたちから学ばされることもたくさんあるんですよ。自分は保育士には向かないと思っている人もぜひ保育士になってみてください。そして未来を担う子どもたちのために活躍し続けてほしいと願っています。

園児と一緒1