インタビュー紹介
尾花 昌美さん
株式会社神戸製鋼所 加古川製鉄所
薄板部冷延精整室 班長
尾花 昌美さん
女性班長として鉄の現場で伸びやかに働き続ける
会社情報
株式会社神戸製鋼所 加古川製鉄所
【所 在 地】加古川市金沢町1番地
【事業内容】鉄鋼業(厚鋼板、熱延鋼板、冷延鋼板、表面処理鋼板、線材)
【従業員数】3,245名
(女性156名、男性3,089名(令和2年2月1日現在)
女性班長として鉄の現場で伸びやかに働き続ける
1905年に神戸で設立し、KOBELCO(コベルコ)のブランド名でもなじみ深い株式会社神戸製鋼所。加古川製鉄所は、1970年に高炉が稼働し、鉄鉱石から最終製品までをつくりだす一貫製鉄所として稼働を開始して以降、地域にも開かれた組織として発展。薄板分野の高張力鋼板(ハイテン)に強みを持つ他、自動車用部品に使用される弁ばね用線材では世界シェアの約50%を占めています。
男性の多い業界にありながら、同社はダイバーシティ推進を重要な経営課題と捉え、女性活躍推進法の施行に先駆け、2014年にダイバーシティ推進室を設置。以来、女性のみならず多様な人材が活躍できる環境づくりに向けた取り組みを推進しています。
入社時より薄板の焼鈍工程に携わり、現在は三交替勤務の現場で班長としてチームを束ねる尾花昌美さん。ものづくりの現場で活躍する女性としての苦労や仕事の醍醐味、リーダーをめざす女性へのメッセージなどについてお話を伺いました。
憧れの関西で、ものづくりの世界に飛び込む
Q:現在の職場を選んだ理由を教えてください。
工業高校の建築科で建築物の耐久性やデザイン設計等を学び、関西圏の就職を希望していたところ、「久しぶりに神戸製鋼で募集がある。良い話だと思うが興味はないか」と先生から声かけ頂きました。募集要項の条件に「交替勤務」がありましたが、「尾花なら大丈夫」と、何故か太鼓判を押され(笑)、飛び込んでみました。
島根県外での就職に関して、一番の理解者は父でした。弊社のラグビーチーム「神戸製鋼コベルコスティーラーズ」のファンだったこともあり、難色を示していた母をなだめ、家を離れることを後押ししてくれました。
入社後の現場実習で焼鈍工程に興味を持ち、配属希望を出しました。願いが叶って、現在の所属に配属されて15年間。毎日楽しく働いています。
Q:製造現場での戸惑いはありましたか?
製造業のイメージは「何かものをつくる」というイメージがあり、学校で学んだ建築分野も「つくる」ということは同じなので、ギャップはあまり感じませんでした。しかし、いざ現場で作業し始めると目の前に置かれた様々な道具の名前や扱いが分からないということもありました。それでも、「一人で作業できるようになりたい」という思いから、ひとつひとつ覚える作業を積み重ねてきました。製造現場に女性が配属され始めた頃のため、現場を歩くと男性社員が「んん?」と振り返ることも多かったです。
経験を重ねるうちに「もっとこうしたい。こうなりたい。」と成長を望む姿を示すことで、上司からも積極的な指導を得られ、当時職場で2名しかいない女性班長に引き上げていただきました。あっという間の15年間です。
監督職として、班員の声に耳を傾けながら働く
Q:働き方で工夫してきたことを教えてください。
私の所属する冷延精整室は、薄板鋼板を製造しています。製品の元となる鋼板に熱処理を施し、鋼板を加工しやすい状態にして次工程へ送っています。ガスバーナーでの点火作業等、危険が伴う部分もありますが、マニュアルを用いて教育を行い、安全に配慮した作業を行うようにしています。
私の入社当時に使っていたマニュアルは、文字ばかりで分かりにくい点もありましたが、自分で設備のスケッチをしてイメージを画像化し、頭を整理することを心がけてきました。また、当初道具の名前が分からなかった経験から、誰が見ても分かりやすく作業しやすくするために、棚やマニュアルに写真やイラストを追加して、職場環境の改善に積極的に取り組んできました。私の工夫を否定せず、上司が支援してくれたことに感謝しています。
Q:班長となって意識の変化はありましたか?
もともと人見知りなのですが、班長となり、自分から積極的に班員や他部署の班長にも話しかけるように心がけています。また、班員の「分からない」に耳を傾け、その人に寄り添うことを考える様になりました。4名の班員は、最年少が19歳、最年長は60歳と、年齢や経験、考え方も様々です。作業前ミーティングで内容をしっかり確認して、経験年数に関わらず同一の認識を持って、仕事に取り組めるように心がけています。
また、チームとして様々な不具合をフォローできる体制づくりにも力を入れています。起重機(クレーン)の運転技能や、溶接作業等の基本的なスキルは集合教育で習得し、後は経験の中で上達していきます。なかでも、設備に不具合がある状態で製品処理を行うと、不良品ができあがってしまいますので、設備の不具合を見つけることはとても大切です。設備を見る目は経験で養われますが、ときには若い世代が、新しい視点で疑問を感じることがあり、普段は気がつきにくい設備の不具合を指摘してくれることもあります。チームとして些細なことでもコミュニケーションを取り合い、フォローし合える環境の重要性を感じて日々仕事をしています。
マネジメント業務を担う職長職に女性はまだいません。私は班長になってまだ4年なので、上司の職長の仕事ぶりを見ながら、精一杯働きたいと思っています。
ものづくり分野での女性活躍の状況
Q:ものづくりの現場での女性は増えていますか。
採用に占める技能系社員の女性の割合を10%にするという目標を立て、取り組みを進めています。現在58名の女性技能系社員が活躍し、私が入社した15年前と現場の雰囲気も随分と変わりました。妊娠、出産しても辞める必要はなく、現在、自分の職場では育休復帰後に3交替勤務から常昼勤務に変更して2名が就労継続中です。夏休み期間中の時短勤務(小学校卒業まで)利用やフレックスタイム勤務活用者も多いです。業界で初めて妊婦用の作業服を作ったのも弊社ですし、女性であるからものづくりの分野に入ることを躊躇する必要はないと感じています。
また社員が仕事とプライベートを両立できるよう、働きやすい職場づくりに組織として注力しており、「スタッフが19時以降に就業する場合は上司へ事前申請」「年休取得目標:平均15日/人・年」といった取り組み等へも、精力的に実施しています。
Q:モチベーションの維持とストレスの発散方法について教えてください。
失敗を引きずってしまうことも多いのですが、班長になってからは、また同じミスを繰り返さないために、どのような対処方法があるかを前向きに考えられるようになりました。班員と一緒に解決方法を考えることで、私も未来志向になりました。班員に支えられてモチベーションを維持することができています。人に恵まれていることに感謝しながら、日々仕事しています。
ストレス発散法は、食べることと旅行です。普段より値の張るものを食べたり、班長になってから回数は少し減りましたが、旅行先で美味しいものを食べてお腹と心を満たすことで、幸せに浸っています。
Q:後に続く方へのエールをお願いします。
私が班長(監督職)になったのは30歳の時でした。昇進前研修の機会が増えることもあり、ある程度覚悟した上で受けましたが、責任の重さに押し潰されそうな不安を感じたことを、昨日の事のように覚えています。けれどもやってみると何とかなるもので、プレッシャーを感じながらも今日まで何とかやってきました。班員に助けられることも多く、班としての取り組みがうまくいったときの達成感はひとしおです。
この4年間の経験から学んだのは、何かあれば誰かが力を貸してくれるということです。助けを借りることは悪いことではなく、感謝しながら努力を続けることで、より大きな成果が出せたということを何度か経験しました。周りの人に支えられながら、今のポジションで職責を果たしています。その恩返しは「班員がのびやかに育つ環境の整備」だと考えていますので、今のポジションでもう少し頑張っていきたいです。
昇進することに少しでも興味があるのでしたら、是非試して欲しいと思います。分からないステージに登ることに怖さを感じるかもしれませんが、チャレンジして自分の可能性を広げて欲しいと思います。