インタビュー紹介
石津 早代さん
社会福祉法人 慈仁会 理事長
高齢者と働くスタッフが互いに慈しみの心を持つ施設に!
会社情報
◆特別養護老人ホーム 山口苑
【所在地】西宮市山口町下山口1203番地1
◆特別養護老人ホーム名塩さくら苑
【所在地】西宮市名塩さくら台2丁目44番地
【事業内容】介護老人福祉施設、
短期入所生活介護、通所介護、
訪問介護、居宅介護、地域包括支援
【従業員数】160人(女性124人、男性36人(2017年4月末現在))
高齢者と働くスタッフが互いに慈しみの心を持つ施設に!
豊かな自然に囲まれながらも阪神間からのアクセスの良さを誇る西宮の地に、平成5年に特別養護老人ホーム山口苑を、平成12年には名塩さくら苑を開設した社会福祉法人慈仁会。「すべての人を等しく慈しむ心で質の高いサービスを」の理念のもと、介護施設は高齢者が尊厳を保ち続け安心して暮らせる居場所であり、そこで働くスタッフも男女がともに自分らしく誇りをもって活躍できる場にしたいと、日々現場に出て奮闘されている若き女性のトップリーダー慈仁会理事長の石津早代さんにお話しを伺いました。
Q 福祉の分野を志したきっかけは?
はじめから福祉に携わろうと思ったわけではなく、大学の文学部を卒業後、希望していたマスコミに就職することはできましたが、厳しい業界であったこともあり道半ばで退職しました。
再スタートを考える中で福祉分野を目指したきっかけは、医師である父親の影響が強かったように思います。父は医師として働く傍ら、病院の経営者として患者さんやスタッフとの人間関係をとても大切にしていました。
父の姿を見て育つ中で、数字だけでは測れない「人」との係わりや「命」の大切さについて自然と身についていたことに気づき、学び直すなら医療か福祉の分野でと思い考えた結果、福祉の世界に進むことにしました。
介護現場が抱える問題を目の当たりにして!
Q これまでの経歴を教えてください。
学生として福祉を学ぶ傍ら、東京都内の特別養護老人ホームでアルバイトをしたことで介護の現状を知りました。20年以上も前のことになりますが、その当時の特別養護老人ホームでは、排泄介助も入浴介助も職員の効率性を優先した方法がとられていました。高齢者の尊厳は守られず、プライバシーの侵害が常態化していました。衝撃的な状況を目の当たりにして、漠然とですが、「いつか福祉を担う立場になることがあれば、高齢者を取り巻く環境や施設で働く職員の就業環境の改革に取り組みたい」と感じたことを今でもはっきりと覚えています。
福祉大学を卒業と同時に兵庫県に戻り、県内の特別養護老人ホームで介護職として数年間勤務しました。そこで学んだ福祉の精神が、今の私の福祉観の核となっています。
その後、慈仁会に事務員として入職。17年間異動を重ね最終的に法人の理事長に就任したときは、ご利用者に「事務員から理事長になって、偉い出世や」と言われたものです。
今、介護の現場は、20年前とは異なる新たな課題が山積しています。当施設の入所者も95歳以上が4割を超え、重度化している方の割合が非常に高くなっています。介護施設にターミナルケアが求められるなど医療と福祉の棲み分けも難しくなってきています。病院であれば、終末期の緩和治療や酸素吸入などができますが、福祉の現場においては医療行為にも限界があり、福祉現場で看取る責任の重さを痛感しています。
職員の育成とモチベーションの維持を重視して!
Q スタッフのモチベーション維持のため、意識していることはありますか?
現場のスタッフには、入所者の重度化に伴って質の高い対応能力が求められますが、介護職は理想と現実のギャップに達成感が得られにくく、モチベーションを維持することが難しくなりがちです。
当法人は、男性介護職員も多く男女ともに勤続年数が長いのが特徴です。産休・育休復帰後も夜勤免除や時短を活用して就業を継続し、男性職員が子育て中の女性職員をカバーする風土が自然にできています。
女性活躍推進法に基づく行動計画を策定したのも男女がともにモチベーションを維持しながら活躍できるようにしたいため。そのために、法人内にプロジェクトチームを作って職員の自主活動を支援したり、施設内研修や事例検討会等で、スタッフの悩みや課題意識を共有し解決方法を一緒に検討していくようにしています。
Q ロールモデルとなる女性の存在は?
私は幼少期からの一貫教育の中で、”Big You small ⅰ”の教育を受けました。Youが大文字でiが小文字になっていることに意味があります。捉え方は様々ですが、「自分と同じくらい相手を大切にする」「少し自分のことは我慢して相手を大切にする」という考えです。私自身、「自分はちっぽけな存在であり、私一人では何もできないけど、共に働いてくれるスタッフによって生かされている」という感覚が強いです。
私の根幹にある「人のために生きることを優先する」という母校のシスターの教えに従って物事を考えることが習慣化しています。
また、父を陰ながら支え続けている母も私のロールモデルです。母は専業主婦として、私は職業人としての道を選択しましたが、人のために生きることを優先するという意味においては母も私も同じだと考えています。
Q トップリーダーとして困難にぶつかったときは?
遠くてなかなか辿り着けませんが、人間としての理想像である父を目標とし、家族の存在が心の支えなっています。
職員も家族同様に支えになってくれており、私の理事長という立場に遠慮することなく、率直に意見やアドバイスをくれます。一人で困難に立ち向かっている意識は全くなく、私を支え一緒に頑張ってくれる家族や職員に言い尽くせないほど感謝しています。リフレッシュのために、休日は家でのんびり絵を描いたり、スタッフとプライベートを共有する機会も多いです。不思議なことに外出先では仕事の話が出ることはなく、オンとオフをきちんと切り替えることで、新しい気持ちで仕事に取り組むことができています。
Q これから介護分野を志す若者や女性たちにメッセージをお願いします。
介護の現場は暗いイメージが先行し、事件や事故が起こるとマスコミは偏った情報ばかりを発信し本当に残念に思います。
介護の分野は、男性、女性ということを意識する機会も、昇進や活躍に差が出ることもほとんどありません。男女ともに力を合わせて活躍できるやり甲斐のある仕事だと思っています。
今、福祉業界では、福祉の分野に関心を持ち、志をもって福祉の門を叩いた方が「福祉の仕事に就いて良かった」と思っていただける環境づくりを進めています。
当施設で働いている職員は、公私ともに充実している人が多く、広報班のスタッフも、働くスタッフの仕事ぶりからプライベートの出来事までホームページで情報発信して、先行する介護のイメージを払拭し、介護職について正しく理解していただこうと努力しています。入所者の暮らしぶりもありのまま伝え、施設の中は笑顔にあふれていることを発信しています。
理事長としては、スタッフの教育に力を注ぎ、「専門性の高いスキル」を身につけていただくことで、スタッフ自身がプロとして高い意識を持って働き続けることを目指しています。将来的には”介護福祉士”という職を「カッコいい!」と言っていただけるレベルまで引き上げていきたいと考えています。
若者や女性たちにも、どんどん介護分野に参画していただきたいとエールを送り、私自身も、これからも高齢者と介護スタッフが互いに慈しみの心をもって関わりあい、安心して暮らせる生活の場づくりやともに成長していける職場づくりに頑張っていきたいと思います。
▲ スタッフ・ご利用者様との外出レクにて (写真一番右 石津理事長)