インタビュー紹介

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小野 裕美さん

小野 裕美さん

株式会社ドクターミール
代表取締役社長
あふれる熱い思いが起業と事業の幅を広げる原動力。

会社情報

株式会社ドクターミール
【所在地】神戸市中央区三宮町1丁目8-1 さんプラザ1階
【事業内容】医療食品の店舗販売及び通信販売、栄養コンサルティング業務
【従業員数】19人(女性14人、男性5人(非正規含む、平成29年4月末時点))

あふれる熱い思いが起業と事業の幅を広げる原動力。

 「食」からの健康を発信することをコンセプトに、ヘルスケア食品(病態栄養食品)を用いて、実践的な食事指導やカウンセリング販売を行う株式会社ドクターミール。
 栄養学博士の小野裕美さんは、結婚後専業主婦となりましたが、平成7年の阪神・淡路大震災をきっかけに「食」や「健康」の大切さを痛感され、管理栄養士の職域の構築をしたいとの思いから平成9年に起業されました。
 全くの素人で挑んだ会社経営を通じ、小野さんは「苦労と波乱の連続の中、改めて『人との縁』に感謝したい」と語ります。こうしたエピソードや、「医」と「食」をつなぐ栄養士としての仕事への思い、働く女性へのメッセージなどについて、お話を伺いました。

「食」を通じ健康を届けたい。

Q 起業以前のご経歴は? 

 祖父は戦時中には軍医としても活躍していた開業医、父は外科の勤務医で、親族にも医療関係者が多く、自然と医療や健康を身近に感じながら育ちました。
 私も医学部へとの思いもあったのですが、父から再三、「これからは『食』が大事」と聞かされていたこともあり、医師が創立した日本で唯一の栄養学の単科大学である、女子栄養大学への進学を決心しました。当時、栄養学はさほど関心が寄せられる分野ではありませんでした。
 卒業時には栄養士と臨床検査技師の資格を取得、卒業後は臨床検査技師として神戸市医師会臨床検査センターに勤務しました。間もなく、当時研修医だった夫と結婚し、夫の転勤にともない日本全国を転々とするため専業主婦となり、料理を習ったり、食に関する知見を増やしたりなどしました。

Q 専業主婦から起業したとのことですが。

 育児が一段落した頃、父が病気を患い、入院することになりました。お見舞いで訪れた病院で目の当たりにしたのは、医療の中での食は十分とは言えない環境でした。入院中の病院食は患者個々の病状に十分対応しておらず、また、栄養指導は実践的なものではありませんでした。また退院後に生活に沿った栄養指導が頻繁に、気軽に受けられる場もなく、患者が誤った知識で食事療法を行っている状況もありました。
 世の中に食べ物があふれているのに、栄養学に基づいた正しい知識が浸透していない状況を目の当たりにし、「これで良いのだろうか」と感じました。そして徐々に、「栄養士の自分に何かできることはないだろうか」との思いが高まりました。

「生きること」は「食べること」―栄養士がつなぐ「医」と「食」ー

Q 起業のきっかけと、それに対する周囲の反応は?  

 そのような思いの中、平成7年に阪神・淡路大震災を体験しました。腎臓病を患う人たちが食事療法を受けられず、病状を悪化させていく。治療食になる食品がどこで手に入るか、どんな種類があるか分からない。このような状況にあって、これは災害時に限ったことでは無い、正しい食の情報を発信するアンテナが必要だ、と起業を決意し、平成9年に管理栄養士が常駐し、食生活に配慮が必要な人向けにコンサルティングをしながらヘルスケア食品を販売する専門店をオープンしました。
 両親は驚きましたが、反対はありませんでした。夫は快く賛同してくれました。かといって家事は相変わらず私の役割で、分担するわけではなかったのですが・・・・(笑)。ただ、仕事が忙しくなり家事に手が回らなくなっても、「ある程度できていればいい」と、おおらかに考えてくれたのは有難いことでした。
 現状では、女性が働くにあたっては、家族の理解や協力が不可欠です。仕事と生活の両立に悩む最近の女性へは、夫婦間のコミュニケーションを密にし、よく話をして、一緒に解決策を生み出してほしいと思います。

Q 会社経営にあたり苦労されたこと、工夫していることは? 

 起業後、大型店舗内のスペースを間借りして、ヘルスケア食品の店舗を開店するに至りましたが、商売に関しては全くの素人で、「いらっしゃいませ」が言えず、お店の中でどう振る舞ったら良いのかも分かりませんでした。その後、大型店舗の皆さんにいろいろ手ほどきを受け、接客から経営に至るまで様々なことを教わりました。
 起業から一貫して持ち続けているのは「食からの健康発信」というポリシー。それを実現するために、その時その時お客様に必要なものを、事業に加えているうちに、現在ではヘルスケア食品販売に加えて、健康生活支援部門としてケアプランニング、訪問看護ステーション、福祉用具ステーション、メディカルフィットネス等を運営しています。
 従業員数は16名で、ネット販売の社員以外は全員医療福祉の専門職。今は多職種連携が重要と言われますが、うちは「他」職種連携。医師、歯科医師、管理栄養士、看護師、理学療法士など皆が連携して働きやすい職場であるよう、職場ミーティングや研修を大切にしています。
 また小さい会社の利点を生かして、社員の声に柔軟に対応してきた結果、子連れ出勤する社員もいますし、管理栄養士が別の資格を取得して、他の社員の急な欠勤にも対応してくれるなど、誰もが働きやすい環境が整ってきました。
 これらは、会社設立以来共に歩んでくれた、統括マネージャー(管理栄養士)をはじめ、家族や、社員の皆の支えと思いがあってこそです。私は幼少の頃から様々な人と接する中で、良いアドバイスや指導をいただき、ここまで導いていただきました。起業後も多くの方に支えられ、いろいろなことを教わりました。つくづく、人との縁のありがたさを痛感しています。

Q 今後の目標は? 

 いまだに栄養士は、医療の現場でも「まかない科」とか「給食のおばちゃん」と見られることが多い状況です。食に関する情報があふれる昨今、栄養士の立場向上をめざし、医療の垣根を越えた医と食と心をつなぐヘルスケア事業の草分け的存在でありたいと考えています。
 また、当社は小さな規模の会社なので、社員一人一人がかけがえのない戦力です。それがやりがいにもプレッシャーにもなるのでしょうが、社員一丸となって自分の子どものようなこの会社を育てていきたいと思っています。

「感謝、謙虚、挑戦」の気持ちを忘れずに

Q 経営者や管理職を目指す女性へのメッセージをお願いします。 

 最近の若い女性は、失敗を恐れるあまり未知のものを避ける傾向があるのではないでしょうか。
 仕事を長く続けていくことは困難なことですが、失敗や苦労が人を育てます。失敗を恐れず、チャレンジ精神でがんばってほしいです。チャレンジのためには、常に感謝と謙虚の気持ちを持っておかなければなりません。
 とはいえ、1人で立ち向かうことは非常に勇気のいることです。仕事の場で価値観を共有できるパートナーの存在があれば心強いことと思います。

Q 頑張る女性や後輩に向けてのメッセージをお願いします。 

 当社では社訓として、「感謝、謙虚、挑戦」を掲げています。
 私は学生時代に学んだことを社会で実践しているとの思いが、「起業」という結果に結びついたのだと感じています。その根底には社会に貢献したいとの意識が強くあります。
 こうした初心を忘れないようにすれば、自然と仕事に前向きに臨むことができます。
 皆さんも「社会の役に立ちたい」という気持ちを忘れず、感謝と謙虚の気持ちを持ちながら、チャレンジしていってほしいと思います。